鋸山を歩く
2年前の丁度この季節に、巨大大仏、千五百羅漢などで知られる、千葉県は鋸山に
行ったことがあります。
房総半島にあって、そびえ立つ鋸山は、三浦半島からも望め、そのぎざぎざの変わった
山容からも、すぐにそれと分かる印象的な山でもあります。
その山の中には、とてつもなく大きな大仏があり、また、たくさんの羅漢さんも安置されて
いると言う。
変わったものに興味を持つ私としては、常々一度は行ってみたいものだと思ってもいたのです。
内房線、浜金谷駅からは、徒歩で10分あまりで、鋸山ロープウェイ乗り場に到着し、
それに乗ればいとも簡単に、とりあえず鋸山展望台に立つ事が出来ます。
その出発点の浜金谷に行くには、いくつかのルートがありますが、その時は、
私は東京駅は八重洲口南口から、午前10時に出発する、JR高速バス
「房総なのはな号 1号」 を利用したのです。
途中 「海ほたる」 で、少々の休憩をとって、まず最初のバス停である「かずさみなと
駅前」で降ります。
そこから内房線で、ひとつ先の浜金谷に向うためであります。
しかし、この時は乗換え時間の連絡が悪く、ひどく待たされたものでした。
浜金谷駅からは鋸山に向う観光客が、自然に何となく列を作り、また何となく同じように
並んで歩き始めて、海岸通りを、10分程のところのロープウェイ乗り場に向ったのでした。
鋸山ロープウェイ、約4分の乗車時間で500円。
この鋸山山頂からの海の眺めは、噂通りに、これは素晴らしいです。
遠く三浦半島の展望、行き交う船と、この海の展開は鋸山ハイキングコースの稜線上では、
幾度となく目にすることになります。
ただ観光客は結構多く、山頂付近は、どこも大変な人で賑わっているのはどこの山でも、
これは同じです。
山の中には、いくつものコースが作られていますが、全山、第三紀層の凝灰岩で
出来ている山で、ところどころには、今でも石切り場の跡もあるというだけに、
道と言う道はほとんど石の道であり石の階段になっています。
ロープウェイから展望台あたりまでは自由に歩けますが、ここから先のハイキングコースは、
拝観料として600円が必要になります。
十州一覧台と呼ばれる展望台、なんでも十州が一望のうちに望まれる雄大な眺望が
ここからは得られるからと。
そこから一気に下って、百尺観音に向う道が上の写真であります。
両側岩の切り通し、じっとりと湿った感じもある薄暗い細い道、幽玄の世界に
踏み込んだような道すじが続きます。
昭和41年5月、6年の歳月をかけて房州石の石切場跡に刻まれた百尺観音。
高さ100尺 (30m) が、その名の由来です。
なんにしても大きいです。
左下にあります小さな白い看板の大きさが、約1メートル、こういう場合には人の姿を
入れたほうが、そのスケールの大きさがわかり易いですね。
ところがこの時、あたりには誰もいなかったのです。
地獄のぞきと言われるところです。
鋸山山頂の一角にあるオーバーハング状の岩場は、房州石を切り出した石切り場の
跡で、ここからは、近くには浜金谷の街並みや、遠く東京湾、三浦半島が望める
スリル満点の所です。
スチール製の手すりがあるにもかかわらず、私は先端までは、とてもではありませんが、
怖くて行けませんでした。
見ていますと面白いもので、軽く先端まで行くのは、ほとんど女性で、大半の男性は
足がすくむのでしょうか、前に進めないのです。
足元が空中と言うのが、どうにも怖いのです。
その地獄のぞきから、いま通ってきた百尺観音前広場を見下ろしたところです。
この地獄のぞきが、いかに高いところにあるのか、これで少しお分かりかと思いますが。
また、このあたりが、鋸山のハイキングコースの最高の見どころであり、ハイライトでも
あるように思います。
稜線に戻れば、また東京湾を広く見渡せるコースが続きます。
小さく見える船は、久里浜港から金谷港を結ぶ、東京湾フェリー。
のどかな早春の風景が広がりますが、その大らかな眺めも、この後はやや下りの
道となり、視界は樹林帯の中へと入っていくようになります。
その樹林帯の中に、つけられています千五百羅漢道のコースの周辺には、
たくさんの石仏が祀られています。
そのいずれもが、かなり傷んだものが多く、古さと合い間って、なんとも哀れささえ
感じるほどです。
この一帯の石仏は日本寺全盛の江戸時代、三百万人講の名を持って行われた、
大工事と共に作られた石仏で、東海千五百羅漢と呼ばれるものだそうです。
しかし、明治時代の廃仏思想によって、荒廃が進み、首の無い石仏も多数あったりで、
目下、「羅漢様お首つなぎ」など、復興プランもあるそうです。
この鋸山ハイキングコースは、石の道、石の階段の連続で、常に登ったり急坂を下ったりと、
普通の山登りの感覚とは大分違います。
何しろ歩きにくいです。
最初、歩いている時は夢中で気になりませんでしたが、コース後半になり、
膝が痛みはじめ、それは帰宅後も続き、そのあと、2週間ほども治るのに時間が
掛かったのを、いまでも覚えています。
歩くのには永い経験があるはずですが、この山ばかりは気をつけないといけません。
昭和44年6月。4ヵ年に渡って復元工事をして再現した大仏です。
原型は天明3年 (1783) に、3ヵ年かけて現在の地に作ったものでしたが、
江戸時代末期になって、自然の風触などによって、ひどい崩壊もあり、昭和41年に
至るまでは荒廃にまかされていたようです。
台座からの高さ、31.05m 。 奈良の大仏、18.18m を、はるかに凌ぐものといわれています。
随分変わった山の、鋸山ですが、それも下るに下れば、後はどこも同じような、
お寺さんの境内です。
庭園もあれば、その中には小さな静かな池もたたずみ、今までの荒々しさの
道から一変して落着いた風景が見られる様になります。
ただ、この日本寺の本堂が、境内の中でも、あまり目立たない所にひっそりと、
それも仮のお堂はいいのですが、あまりにも質素なのには少々驚きました。
いずれ立派な本堂が出来るのでしょうか。
日本寺の境内を出てからは、あたりは田園地帯の中を歩くようになります。
保田駅に向うこの道の両側には、あちらこちらにビニールハウスがあり、まだまだ冷たい
風が吹く季節なのに、色とりどりの花々が、その中で、それぞれに咲き誇っています。
入り口が開いている所もあり、入ってみると、むっとする位の暖かさです。
ここは房総特有の、お花の産地でもあるようです。
この附近、いたるところに菜の花も見られます。
線路沿いには見渡す限りの黄色い花。
まるで菜の花の群落の上を、内房線は走っているようです。
保田駅からはひとつ戻って、再び浜金谷です。
そこからは徒歩で5分ほどで金谷港、帰路はそこから出ます、東京湾フェリーで
久里浜経由で帰ります。
この日のコースの中で、これから乗るフェリーが一番の楽しみかもしれません。
時期的にもシーズン前の静けさ、乗客も数えられるくらいの少なさ、それだけに
深い味わいもあるというものです。
このフェリーは金谷港を出港して、東京湾を横断するもので、久里浜港まで、
所要時間35分、乗船券500円です。
1時間に1本から2本あり、この航路に就航するフェリーは "ホテルのラウンジの
ような船室" とも云われ、なかなか優雅なことは確かです。
航海中にすれ違う東京湾フェリー。
甲板で風に吹かれながらの、しばしの船旅もいいものです。
昔から私は船が大好きで、伊豆七島に行くにも随分と乗りました。
大島から始まり、式根島、三宅島 神津島、八丈島と飛行機があるにもかかわらず
船が好きです。
わずか35分の船旅は、あっという間のことですが、また、機会があれば、今度はこの
船だけにでも、乗ってみたいものです。
たしか一日乗船券なるものがあったようです。
一日中、東京湾を行ったり来たり ・・・・・ やっぱりあきるかな。
さて、ひとりで歩き回った、この日の鋸山でしたが、その山、全体が日本寺の境内といわれる、
実に変わった山でもあります。
永い登山暦の中でもこの鋸山は特異な存在の山のように思います。
一応登山とは云いますが、はたしてこの山は登山すると言っていい山なのか、それすら考えてしまうくらい、あいまいな山 ? かもしれません。
遠く離れていく房総半島、山頂には白い展望台の建物。
また来る事があるかな。
もう無いかな。
だけれど何だか、忘れられない山になりそうです。


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