2004年11月 3日

ひそかな楽しみ

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藤原 謹 作  備前焼 ぐい呑

プッポロには、いろいろな楽しみごとがあります。

山に登るのも好きだし、山に登ってそこで山の絵を描くことも好きです。

歌舞伎を見るのが好きなら、自転車に乗るのも好き、音楽と楽器にも手を出して、
そして、もうひとつ、ひそやかな楽しみがあります。

それが新宿二丁目にあるのです。

といっても、新宿二丁目の、あの例の世界のことではありません。

地味な趣味といわれそうですが、実は焼き物も好きなのです。

とりわけ素朴な、釉薬という薬を使わずに、焼しめてゆくだけの焼き物で、
岡山で知られるおなじみの、あの備前焼。

その備前焼の専門店が、なんと、この新宿二丁目のど真ん中にあるのです。

その手の本屋というか、雑貨やというか、その世界の方の店のお隣に、
この備前焼の窯匠(ようしょう)というお店があるのです。

知人から知らされた、この窯匠に出入りするようになってから、もう随分たちますが、
最初の頃は、小さな小さな花器、それも、1500円程度の物を買っては楽しんでいました。

それから間もなく、ふと又、立ち寄った時に、プッポロの目に留まったのが、
小柄な「ぐい呑」でした。

それは、色艶といい、その輝くばかりの、色の美しさ、茶色がかった明るい
海老茶色と云ったらいいのでしょうか、分けもわからず、見とれたものでした。

ところで、いつも、出入り口近くのレジースターの所には、ここのご主人が
いつも決まって座っています。

80才に近いかなぁと、いつも思っていましたが、痩せ型で、ちょつと神経質そう、
口数も少なく、今まであまり話もしたことが無いのです。

今、目の前にある、その「ぐい呑」は、あきらかにいつも買っている安い物とは違う事が、
プッポロにだってわかります。

欲しいけど値段はいったい幾らぐらいだろう。高いと困るしと、胸がドキドキします。

それにしても、ここの主人とっつきにくいなぁと思いながら。

「あのー すみません これおいくらでしょう 」

座ったまま、さがった眼鏡のレンズの上から、こっちを見つめて、
「そこに かいてあるはずだよ」 とひと言。

「ぐい呑み」の周りをさがすと小さく4000円と値札が立っている。

一個4000円、二個で8000円、あたりまえの事を考えている。

二個で8000円かぁ ということは、一個というわけにはいかない。

家内の分まで、買わなかったら、我が家は大変な事になるのは判っている。

でも二個で8000円はちょつと高いなぁーとも、また思ってしまう。

しかし、この手触り、形といい、色の良さ、手にしっくりとくるこの感じ、欲しいと思う。

「そうだな 買っちゃうかな」

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手の中にあるその「ぐい呑」を、くるくる回しながら眺めているうちに、
ふと気が付いたものがある。

いとじり近くに、ひっかいた様なものがある。

「あのー また すみませんが ここに キズのようなものがあるようなんですが」

口数の少ない店主が、ようやく立ち上がって、

「なにっ  キズだっ 」とそばにやって来ます。

「どれよ どこにあるの」

「ここです ここの下のところの ここにあるでしょ このところなんですが」

「これっ  これのことを いってるの あんた」

人の顔をジーッと見ています。何かいやな予感がします。

口数の少ない静かなおじいさんと、今の今まで思っていた人が、急にばかでかい声で、

「あー あんた !! やだねー あー いやだ !! いやだ !!」

「これがキズだなんて あー いやだ !!   あんたね これっ サインなんだよっ 
これがあるから あんた このぐい呑みの価値があるんじゃないの それを あんた 
キズだなんて あー  いやだ」


「これはね 岡山県の無形文化財の藤原楽山の息子さん 今人気が出てきた
藤原謹さんのものなの 謹さんの あなた これサインなの  それをキズだなんて  
ほんとに  あんた  やんなちゃうなぁ」

もぐもぐ動かす口を見ながら、なんだ、ぜんぜん無口じゃないじゃないか。

「それで どうするの これっ」

まだ、もぐもぐしています。

「いや どうも すみません  これサインなんですか 知らないってしょうがないですね 
 ええ あのー ふたつ頂きます」

「ふたつ ふたつだと あんた いくらになる」 

「えっ えーふたつだと  8000円になります」

「ああっ そうかね」 ってなんだ。

一万円札を差し出すと、

「そこによー  消費税入れてよ  おつりは幾らになるかあんた 自分で計算してよ」

「えーっと 8000円で 消費税5パーセントで 400円で 合わせて8400円  
おつりは  1600円 じゃないかと思います」

「あーそうかい  そりゃよかったね」 って 一体なんだ。


上の写真の「ぐい呑」、いまプッポロの、一番のお気に入りであります。

金沢の銘酒「黒帯」などを、これで頂きますと、ことのほか、美味であります。

「窯匠」のご主人、その後、二度とお目に掛かることはありませんでした。


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