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2006年11月30日

特別展 仏像

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「特別展 仏像 一木にこめられた祈り」と、題して12月3日まで、東京 上野の
東京国立博物館の平成館で仏像展が開催されています。

奈良 平安仏から円空、木喰(もくじき)にいたるまで、公開されている百四十余の
仏像のうち国宝 ・ 重要文化財45体も含み、それは見事な展覧であります。

数ある名品の中でもひときわ心を引かれているのが、琵琶湖、湖畔にある渡岸寺(どがんじ)
観音堂所在の「向源寺」の、国宝 十一面観音菩薩立像であります。

像の高さ194センチ、平安時代 9世紀の作。

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特別展 仏像 カタログより

凛と立つそのふくよかな姿を、広い会場でひと目見たとき、ああ、 これが琵琶湖の北、
「湖北の観音」と云われる十一面観音かと、しばし呆然と見つめたものでした。

それはもう十数年も前に読んだ、井上靖氏の小説「星と祭」の中に重要な役割として、
この「湖北の観音」十一面観音が登場します。

古いことでその内容は正確には覚えていませんが、たしか東京に住む女子大生が、
滋賀県の 琵琶湖、湖畔を訪れた時、その土地のひとりの青年とめぐり合い、ふたりして
その大きな湖、琵琶湖にボートを漕ぎ出したのです。


これがその「星と祭」の冒頭のシーンであります。

その後、ボートの中で何があったのか、不幸にしてボートは転覆し二人は水死体で発見されます。


事件の後、双方の親達の心痛の果ては相手方へのいがみ合いと、憎しみに。

青年の方はたしか、年老いた父親一人だったと思いますが、男性側として相手の一人娘の
両親には、ひたすら詫びるばかり。

月日は過ぎて、季節は変わり苦しい気持を持ちながらも、いつしか東京から、
その親達は琵琶湖に訪ねるようになります。

2度、3度訪ねるうちにその湖畔のまわりには、多くの観音堂があることを知り、
そこに祀られている十一面観音に苦しい気持が引かれていくのです。

男性側をせめ続けていくうちに、知らず知らずのうちに、なぜか人を許す心が芽生えてくる。

それをはっきり意識する場面が私には今でも強く頭に残っているのです。

海とも思える大きな琵琶湖の湖上に、ある日、そこに祭られている数多くの観音様が
めくるめく様に、次から次と現れては消え、また現れる。

その主題となる観音菩薩がこの「向源寺」の国宝 十一面観音をもって現しております。

その慈悲のこころ、そして人を許すには強い心が必要です。

それを教えてくれたのが、この偉大な観音様として描かれたのが井上靖氏の
「星と祭」であります。

それを読んで以来、はたしてどんな仏像なのかと、思うばかりで十数年が過ぎましたが、
いま念願かなって門外不出とも云われている、この仏像を東京で拝見する事が出来ました。


本展はそれぞれに歴史を積み重ねてきた名品揃いですが、その中でも、
この十一面観音菩薩像は、気品と言いますか、白州正子さんではありませんが、
「湖北の風景の中で思いもかけず美しい観音に接した時は、ほんとうに仏に
まみえるという心地がした」(近江山河抄)と言わしめているとおりであります。

12月3日までこの東京にいて下さいます。


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特別展 仏像 カタログより

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