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2006年1月 7日

稲村ヶ崎

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稲村ヶ崎の海   絵 プッポロ

数えきれない程の絵を今までに描いてきたが、海そのものの絵は、後にも先にも、
まずこの一枚だけだと思う。

何の変哲もない水平線が一本広がり、上には空、下には四月のまだ寒々とした海の色。

今、考えると自分でも珍しいスケッチをしたものだと思う。

場所は湘南は稲村ヶ崎。

国道134号線が走り、その道路からわずかばかりの石段を降りると、それ程広くもない
砂浜が左右に見渡せるが、それも左側は稲村ヶ崎の岬が海に突き出し、
砂浜はそこで行き止まりになる。

その岬も黄土色のあらわな崖がそびえ、所々、へばりつくように数本の松が
危うい姿で生きている。

登ってみれば鎌倉海浜公園といった名の小さな広場になっている。

夏になっても、ここには近くの人しか泳ぎに来ない、勿論シャワールームなどもない、
ただの小さな砂浜。

静かで上品で、そして贅沢な、少年達の、とっておきの海の遊び場でもある。

そんな稲村ヶ崎の海が昔からとっても私は好きだ。

四月といってもまだ寒い日のことだった。

時折強く吹く海風にスケッチブックの紙は踊り、小さな砂がそこに舞い落ちる。

それを手で払いのけながら、また、海を見つめ筆を運ぶ。

日が差せば、紺碧の海が見られるところだが、曇天の海の色は複雑で難しい。

空の色も私には手に負えない力不足を感じたが、始めたからには、
何とか終りまでもっていきたい思いで砂浜の石段に座り続けた。

1時間半ほど掛かったろうか、淡くうすく着彩し続けて、冷たい海風に膝が
小刻みに震える頃、スケッチブックを閉じた。

その後、この絵はほとんど見ることもなかったし、ましてや人様に見せられる絵
でもないと、自分でも変わったものを描いたなと思うばかりであった。

先日、絵の整理をしていたら、その絵の束の中から一枚すべり落ちたのが
この絵であって、久し振りにああ、こんな絵も描いたなぁと、今更ながらに
稲村ヶ崎を懐かしく思いだした。

今見てもポイントも無いし、ただモチーフとしての海そのものだけ、あの時なぜ
海だけを描きたくなったのか、自分で自分のあの時の精神状態を考えてみたりする。

ただ、あの寒空で飽きずに根気よく、絵の具を塗り重ねたあの粘り強さを、
今は、少々うらやましくも感じる。

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コメント

この海、若いと分からないかも。とっても好き。只海だけの絵、私も描きたいと思ってました。
「こう有りたい心の風景」かな・・

投稿: ジュンコ | 2014年8月17日 18時10分

ジュンコ様
コメントありがとうございます。

2006年1月とありますので、この絵を描いてから、すでに8年も経過しているのですね。

その時の移ろいの早さに、また、気づかされました。
確かに数多くの絵の中でも、この稲村ガ崎の海の絵は特異な絵の一枚です。

東京から電車を乗り継いで、江ノ電の稲村ガ崎の駅に到着。
坂道を下って海岸に出れば、何の変哲もない冬の曇天の海。
見渡す限り人影もなく、耳には風の音ばかりでした。
たった一枚の絵を描くために、一日を過ごしたことなど、ありありと思い出させてくれるのも絵であります。

ありがとうございました。

投稿: プッポロ | 2014年8月19日 11時01分

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